なぜ日本のレバレッジ上限が25倍なのか、説明できますか?
日本の公認FX会社で取引する場合のレバレッジ上限は25倍です。
誰もが知っている事実ですよね。
個人のFX取引が日本国内でスタートしたのは1998年(=改正外為法施行)です。当時はまだ黎明期だったため、取引ルールも業者によってまちまちで、リスク管理の多くは投資家に委ねられていました。結果、悪質FX業者と投資家とのトラブルが多発し、社会問題化しました。
その後、一気に法整備が進みます。
2010年2月…信託保全の義務化・ロスカット制度スタート
2010年8月…レバレッジ50規制スタート
2011年8月…レバレッジ25規制スタート
25倍レバレッジ規制は、いわば金融庁による悪質業者(海外FX業者)の浄化作戦でした。レバレッジの上限を25倍にすることで、ハイレバ海外FX業者を締め出す(無登録業者として排除する)ことに成功したわけです。
金融庁の目論見どおり、海外のハイレバFX業者の浄化作戦は大成功したのじゃよ。
もちろんわたしたちがハイレバ業者と取引することは違法ではありませんが、無登録であるため消費者保護の枠に入れてもらうことはできません。つまり100%自己責任です。
で本題です。
なぜ日本国内のレバレッジの上限が25倍と制定されたのでしょうか?
説明できる人はいますか?
これ、意外と知らない人多いのですよね。
確かに…
トレード歴は長いけど、どうしてレバ25倍になってるのか、よく知らないなー…
そうじゃろ。
レバ25倍の根拠を、詳しく説明できる人はそんなにお多くないはずじゃよ。
レバレッジの上限が25倍と定められたのには、しっかりとした根拠があります。
金融庁がレバレッジ上限25倍が妥当であると考えた根拠とは?
レバ25倍を定めたのはもちろん金融庁です。レバレッジ規制を定める際に多くの識者・関係者からヒヤリングを行い、パブリックコメントを集めました。
そのパブリックコメントに対する金融庁の回答『コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方 』という書類の中にヒントがあります。
引用します。
一番取引量の多い米ドル-円について、平成17年にFXに登録制度を導入した後の半年間毎に見て、最も変動の激しかった平成20年下半期を基準に 1 日の為替の価格変動をカバーする水準を勘案して、個人顧客を相手方とする FX 取引等について、取引所取引・店頭取引共通の規制として、想定元本の 4%以上の証拠金の預託を受けることを義務付けるものです。
まとめると、最も取引されるUSD/JPY(米ドル円)のボラティリティ(価格変動率)を基準にした場合、『4%以上の証拠金預託』が取引の安全性としては妥当である…ということですね。
ボラティリティ(価格変動率)の基準となったのは、平成20年(2008年)下半期の相場です。
ちなみにボラチェッカーによる各通貨ペアのボラティリティデータがこちら。2022年2月15日(1日)のデータです。
通貨ペア | ボラティリティ |
米ドル円(USD/JPY) | 61pips |
ユーロ円(EUR/JPY) | 109pips |
ユーロ米ドル(EUR/USD) | 69pips |
ポンド円(GBP/JPY) | 87pips |
※その日の高値から安値を引いた値をボラティリティと判断しています。この値幅(米ドル円ならば61pips)の中で相場が動いたことを意味します。
金融庁は、最も変動の激しかった平成20年(2008年)下半期を基準にして、1日のレート変動(ボラティリティ)をカバーできる水準をベースに、証拠金預託水準を4%以上と定めたのです。
ちなみに、”最も変動の激しかった平成20年(2008年)下半期”ですが、同時期には世界を揺るがす大事件が勃発しています。そう、リーマン・ショックです。2008年9月15日にリーマン・ブラザーズが経営破綻した結果、世界規模の金融危機が発生したことは記憶に新しいですね。
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証拠金預託水準が4%以上とはどういう意味?
※ここからは金融庁の理論です。説明上ロスカット水準は考えないものとします。
仮にレバレッジ100倍で考えてみましょう。10,000通貨を売買する場合、1ドル=100円で換算すると、100万円ですね。レバレッジ100倍ならば、100万円÷100=1万円の証拠金で取引可能です。このときの証拠金預託水準は1%です(1万円÷100万円)。
ドル円相場が1pips(0.01円)動くと…
損益 = 1pips ✕ 取引量
損益 = 0.01円 ✕ 10,000通貨(1ロット)
損益 = 100円
100円の損益が発生します。
このことから、証拠金1万円をすべて失うほどの相場の動きは、100pips(1円)であることがわかりますね(理論上)。
ではレバレッジ25倍なら?100万円÷25=4万円の証拠金で取引できます。このときの証拠金預託水準は4%です(4万円÷100万円)。ドル円相場が1pips(0.01円)動くと…
損益 = 1pips ✕ 取引量
損益 = 0.01円 ✕ 10,000通貨(1ロット)
損益 = 100円
100円の損益が発生します。このことから、証拠金4万円をすべて失うほどの相場の動きは、400pips(4円)であることがわかりますね(理論上)。
つまりレバレッジ25倍(証拠金預託水準は4%)ならば、1日400pips(4円)の変動幅に耐えられることを意味します(理論上)。
証拠金預託水準を4%以上(レバ25倍を上限)としておけば、大きく相場が変動したとしても(1日で400pips前後)、証拠金をすべて失うことはない…こう考えたわけですね。
その結果、
一番取引量の多い米ドル-円について、平成17年にFXに登録制度を導入した後の半年間毎に見て、最も変動の激しかった平成20年下半期を基準に 1 日の為替の価格変動をカバーする水準を勘案して、個人顧客を相手方とする FX 取引等について、取引所取引・店頭取引共通の規制として、想定元本の 4%以上の証拠金の預託を受けることを義務付けるものです。
と判断したのですね。
ちなみに、ボラチェッカーによる米ドル円(USD/JPY)の期間別ボラティリティは次の通り。
前日 | 週間 | 月間 | 3ヶ月 | 6ヶ月 | 年間 |
61pips | 142pips | 287pips | 382pips | 763pips | 1376pips |
※2022年2月16日のデータ
金融庁のレバレッジ規制には、大きな落とし穴がある
金融庁がどのような理論でレバレッジ25倍上限を定めたのか、ざっくりと理解はできたと思います。
しかしながら、レバレッジによって取引リスクをコントロールできるというのは幻想です。
25倍レバレッジ規制は、リスクコントロールとしては不十分なのじゃよ。
むしろ「国内FXは安全」だと錯覚を起こさせるやっかいな規制なのじゃよ。
FX取引におけるリスクの大小は、常に、全口座資金量に対してどれくらいのサイズのボジションを持つかで決まります。レバレッジは直接的には関係ありません。
詳しくは以下の関連記事をお読みください。
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- 「ハイレバは危険!やめとけ!」って言ってた奴、ちょっとこい
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ハイレバが危険なのではなく、過剰なポジションが危険なのですね。
以前にも解説しましたが、「ハイレバ=ハイリスク」ではなく「オーバーポジション=ハイリスク」が正しのです。
- お金が減るスピードに直接影響するのは”ポジションサイズ(ロット数)”と”値幅”のみであり、レバレッジは無関係。
- 強制ロスカット(=証拠金維持率)に直接影響を与えるのはレバレッジではなく”ポジションサイズ”である。
- ポジションサイズを正しくコントロールできていれば、ハイレバは危険ではない。
残念ながら、金融庁が定めたレバレッジ25倍規制は、投資家保護という観点から見れば不十分です。むしろ今のレバレッジ規制が投資家の損失を回避させていると錯覚させてしまう恐れもあります。
本当に必要なのは、効果の低いレバレッジ規制ではなく資金量に対する適正なポジションを定める規制です。