投資と生存者バイアス
『読みなよ。』FX勉強会の運営者が自死?!元”参加者”による暴露がガチでヤバいと話題に…にて生存者バイアスについて触れました。
投資に限らず、多くの事象において見過ごされがちな生存者バイアスという概念。
今回、もう少し掘り下げて解説します。
生存者バイアス=生存者の裏には無数の見えない落伍者が存在する
Wikipediaによれば、生存者バイアスは次の通り。
生存者バイアス(せいぞんしゃバイアス、英語: survivorship bias、survival bias)または生存バイアス(せいぞんバイアス)とは、何らかの選択過程を通過した人・物・事のみを基準として判断を行い、通過に失敗した人・物・事が見えなくなることである。選択バイアス(英語版)の一種である。
生存者バイアスの例として、ある事故の生存者の話を聞いて、「その事故はそれほど危険ではなかった」と判断するという事例がある。それは、話を聞く相手が全て「生き残った人」だからである。たとえ事故による死者数を知っていたとしても、当然死んだ人達の話を聞く術はなく、それがバイアスにつながる
引用:Wikipedia
バイアス(bias)とは「偏り」です。
生存者(勝者)の影には、無数の見えない落伍者(敗者)が存在し、生存者のみを基準とした判断は本質を欠いてしまうということ。
「被害の集中している箇所を強化すれば、もっと強い爆撃機が作れるぞ!」←誤り
生存者バイアスを語るときに最も引き合いに出される例がこちら。
上のイラストは、戦場から生還した爆撃機の損傷箇所を赤点で示した図です。
損傷箇所が集中しているのは以下の4箇所。
- 主翼の先端部
- 主翼の付け根部
- 胴体の中央部
- 水平尾翼(後ろの翼)
通常の考えだと、「よし、被害の集中している箇所を強化すれば、もっと強固な爆撃機が作れるぞ!」となりますよね。
実際にこのデータを分析した軍の解析部は、被害が集中している箇所の強化策を提言しました。
「強化すべき箇所は無傷の領域だ!」←正解
ところが、この論に異を唱えた人物がいます。統計学者のAbraham Wald(エイブラハム・ウォールド)です。
おいおい、おかしくないか?
みんな帰還できた爆撃機だけを参考にしているが、撃墜されてしまった無数の爆撃機のことを誰も考えていないじゃないか!
撃墜されて帰還できなかった無数の爆撃機の存在を無視した議論に違和感を感じたのです。
生還した爆撃機の損傷箇所は、そこがダメージを受けても安全に帰還できるゾーンを示しているとも考えられる…。
逆に言えば生還機の損傷が少ない箇所(無傷の領域)こそが最大の弱点であり、ここを攻撃されて損傷すると墜落して帰還できなくなってしまう可能性が高いと考えるのが妥当だろう。
ならば、生還機の損傷の少ない部分こそ最も強化すべきだ!
- 生還機の損傷部分…損傷を受けてもギリギリ生還できるゾーン
- 生還機の無傷部分…損傷を受けると生還できないゾーン
と考えたわけです。逆転の発想です。
結果的にAbraham Wald(エイブラハム・ウォールド)の案が採用され、損傷の少ない箇所へのさらなる補強がおこなわれたのです。主に以下の箇所。
- 機首〜コックピット部
- 主翼エンジン部
- 胴体後部
生き残った人(成功者)の話だけを聞くことの無意味さ
先に挙げた爆撃機の例が何を意味するのか?
数少ない生き残った人(成功者)の事例だけを取り上げても真実(本質)は見えてこないということ。その裏には無数の敗者(落伍者)が存在し、彼らの話を聞くことが叶わないからです。
一部の成功者の話だけを分析してルールや法則を導き出すことが、結果的にバイアス(偏り)につながるわけです。
世の中は成功者の話で溢れかえっています。最近で言えばユーチューバーなど。メディアが取り上げるので成功ユーチューバーは否が応でも目立ちます。つい、彼らを分析することで成功のための道筋(秘訣)が見えるのでは?と考えてしまいますよね。彼らがやってきたことを仔細に分析し、彼らと同じことをすれば上手くいくのではないかと思いがちですが、それこそ生存者バイアスです。
彼ら成功者の裏には、無数の失敗者が存在している事実を忘れてしまいがちです。もしかすると成功者と同じことをしていても失敗するケースの方が多い事実をスルーしてしまうのですね。
ペット(猫や犬など)をメインにした動画チャンネルは人気がありますよね。中には登録者数100万人を超えるチャンネルもあります。
登録者数の多いチャンネル(成功者)は目立つので「ペット動画は再生数が稼げる」と思いがちです。しかし、その裏には同じような動画(ペット動画)をアップしても、ほとんど再生されないチャンネルが、それこそ星の数ほどあります(圧倒的多数の失敗者)。誰もその失敗を知らない(あるいは考えようとしない)のです。
成功者は、偶然時流に乗ったりたまたま運が良かった…こうした要素を無視した成功論に意味はありません。
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投資における生存者バイアスとは?
投資もビジネスと同じように、才能やスキルだけでは上手くいきません。無数の偶然に左右されるからです。たまたま時流に乗っただけで億万長者になった…こんな事例は枚挙にいとまがないほど。
2010年台、偶然アベノミクスに乗れたというだけで多くの億り人が誕生したのは記憶に新しいですよね。
2000年〜、ユーロの右肩上がりに(偶然)乗っただけで数億円の資産を築いた人もいます。
投資成功者の話(ストーリー)は、往々にして「偶然」が重なった結果にすぎないことが多いのです。
メディアが投資成功者を頻繁に取り上げるため、彼らの話(手法)に注目が集まります。
「私は◯◯を◯◯して1億円達成した!」のようなストーリーが一人歩きをしてしまいます。本人も「自分には投資の才能があるのだ!」と自分の実力で稼いだと勘違いしてしまうのが怖いところです。
その一方で、同じ手法を採用しているにもかかわらず失敗した人々が無数に存在します。彼らの話は決して日の目を見ることはありません。落伍者の話など誰も聞きたくないからです。
”生存者バイアス”がFX初心者の認知を歪めてしまう
FXや仮想通貨投資の世界にも生存者バイアスは存在します。
FX成功者(自称)がSNSやブログなどで、自身の成功事例を自画自賛し、◯◯◯を◯◯◯すれば勝てるよ!と煽り立てます。
成功は偶然が大いに作用した結果である可能性も高いのですが、そんなことは誰も言及しません。本人ですら自分の実力だと勘違いします。
同じ手法を使ってもまったく勝てずに資金を減らした無数の脱落者の存在を誰も考えようとしません。落伍者や退場者はSNSやブログで発言しないし、発言しても誰も興味を持たないからです。結果的に、SNSやブログには成功者したトレーダーで溢れかえることになるのです。
さらには、自身の(偶然成功した)手法をネタに有料サロンや有料勉強会、オンラインスクールなどを開講して金儲けを始める人もではじめる始末。
バイアスだらけの(偶然の)成功なのに、「◯◯◯を◯◯◯すれば勝てるよ!」と初心者の認知を歪めてしまうことに加担します。百害あって一利なしです。
小さく賭けて偶然を待つ
バイアスだらけの投資において成功するにはどうすれば良いのか?
一つのアイデアとしておすすめできるのは、「小さく賭けて偶然を待つ」という思考です。
一度の失敗で退場してしまうことが最もやってはいけないこと。そのためにはまず小さく賭けることが不可欠です。
まずは、小さな賭け(少ないロット・少ない資金)で多くの投資経験を積み、スキルアップを目指します。無数の失敗から学び、自身の投資スタイル(ストラテジー)を構築していくのです。
デモトレードではなく、リアルマネーを使ってトレードします。ただし極力小さく賭けること。勉強会やスクールに大金を投じるくらいなら、そのお金を使ってすぐにトレードを始めたほうが100倍有益です。投資の基本は書籍やWEBでいくらでも学べます。
小さな賭けを繰り返しつつスキルアップする。これが第一段階です。
次のステップは「偶然を待つ」。偶然とは「運」や「波」です。
偶然訪れる「運」や「波」に乗ることは、投資で成功するために不可欠な要素です。成功した投資家の多くが、偶然の波に乗ることができたことで「億り人」になったからです。
偶然の波(運)に乗るためには、長期的に相場で生き残ることが欠かせません。一発退場は絶対ダメ。だから「小さく賭ける」のです。資金管理が非常に重要になることは言うまでもありません。
できるだけ長く賭け続けるには、まず生き残ること。そのためには小さく賭けること。そして根気強く「偶然を待つ」。偶然はいつ訪れるか誰にもわかりません。だから賭け続けることが求められます。
もちろん、一度に大金を投じ、偶然の波を「偶然捉えて」短期間で大成功する人も存在します。
魅力的で憧れるストーリーですが、再現性は限りなくゼロです。それこそ「生存者バイアス」であり、FX初心者が最も避けるべき事例です。
偶然やってくる大きな波(うねり)に乗るために、まずは生き残り続けること。ジョージ・ソロスも以下のように語っています。
まず生き残れ。儲けるのはそれからだ。
byジョージ・ソロス