業界が注目していた裁判の判決が出ました
少し古い情報で恐縮ですが、扶桑社(M氏)とS氏の裁判において判決が出ていたようです。この裁判について、よく知らない方は以下の記事をお読み下さい。
判決は2013年(平成25年)12月6日に出されています。※Mという氏名は、ハンドルネーム(本名ではない)です。
判決文は裁判所のデータベースから閲覧できます
まずは判決文を読んでみましょう。実際の判決文は裁判所のWEBサイトで閲覧が可能です。
右サイドバーのメニューから裁判例情報をクリックし、事件番号「平成24年(ワ)第14492号」を入力して検索します。すると…
原告(S氏)の請求をいずれも棄却する
肝心の判決ですが、「原告の請求をいずれも棄却する」、つまりS氏(原告)の全面敗訴です。
この裁判は、原告であるS氏の書籍が、被告の書籍(同時期)出版によって売れ行きが落ちた、つまり逸失利益が発生したことに対する損害賠償訴訟です。
競合本を出版することは、全く問題ないのですが、扶桑社(M氏)の書籍が、
表紙,帯及び本文には,その内容,品質について誤認をさせるような表示をした部分がある
ことから、出版したこと自体が、不正競争防止法・独禁法違反である、という主張です。S氏の書籍は、「月100万円儲ける!『株』チャートパターン投資術」です。
そして、M氏(扶桑社)の書籍は、「平凡な大学生のボクがネット株で3億円稼いだ秘術教えます!」ですね。
S氏の主張とは?
原告(S氏)は、M氏の実績(2年3か月で30万円を3億円にすることができた)が虚偽である、と主張していました。
本件書籍の著者である被告Cには,その表示どおりの実績が存在しないのであるから,本件書籍に「2年3か月で30万円を3億円にすることができた投資手法」や,「実際に2年3か月で平凡な大学生が資金を1000倍にすることができた株式投資手法」など記載されているはずがない。
よって,30万円を3億円にすることが「できた」投資手法そのものが存在しないということになるところ,上記表示が,一般需要者の購入の選択を誤らせるものであることは,本件書籍に本件表示がなければ,19万部もの販売部数を達成し得なかったであろうことからも明らかである。平成24年(ワ)第14492号判決文より引用
S氏が三村氏の実績を虚偽であると考える理由については、いくつかあります。口座開設時の年齢や、複数の取引における食い違い(矛盾)等を指摘しています。詳しくは判決文をお読み下さい。
3億円達成時の口座残高画像も修正された可能性がある、と主張しています。
3億円を超える残高を表示する口座画像が掲載されているが,上記画像のうち,「前日比」欄の2箇所の金額の数字(180万2700円と2301万2500円)がかけ離れすぎており,いずれかの数字が修正された画像である可能性が高い。
平成24年(ワ)第14492号判決文より引用
まるで、FX情報商材業界のようですね。
M氏の実績は本物だったのか?
裁判の争点はいくつかありますが、私が一番気になったのは、M氏の実績が本物かどうか?という点です。おそらく、他の方も、同様なのではないでしょうか?
M氏は、当初、母親名義の口座で取引をスタートしたようです。20万円を4900万円まで増やした後に、自分名義の口座に資金を移動したそうです。その後、M氏の資金は3億2000万円まで増えました。
この裏付けとなるデータとして、M氏とその母親名義口座の特定口座年間取引報告書や、入出金記録、そして資産推移一覧表を提出しています。
これらを裁判所が認めている(本物であると推定されると判断)ことから、M氏の実績は疑うには不十分だとしています。つまり、実績は本物だと推測される、と判断したわけです。
裁判所の判決の中身
それでは裁判所の判決を具体的に見て行きましょう。(ざっくりとまとめていますので、詳細は判例をお読み下さい)
1.M氏の書籍について
M氏の書籍は、単なる「読み物」としての域を出ないとしています。投資指南書ではなく投資エッセイ本ですね。つまり、エッセイ(散文)的なものであり、社会通念的に考えれば全てが事実であると考えるのは早計すぎるということですね。
その全部が著者の経験した事実に基づいてありのままに記載されたものであるとまで認識するものとは解されない
平成24年(ワ)第14492号判決文より引用
投資エッセイ本であるから、本の中に書かれたことの中にはフィクション(架空の話)も含まれている、と読者が考えることは普通であるという判断です。これはちょっと、驚きですね。読者の意識が求められています。
2.M氏の実績は?
M氏の実績は、楽天証券の特定口座年間取引報告書が本物であるとの推定されるとの判断から、2年間で3億円の利益を手にした点を疑うことは難しいとしています。
乙10ないし12(特定口座年間取引報告書)には,いずれも楽天証券の押印があるから,真正に成立したものと推定される
(中略)
株取引により,平成16年及び平成17年の2年間で合計3億円を超える差益金を得たことが認められる
平成24年(ワ)第14492号判決文より引用
つまり、疑うには不十分だということですね。原告側(渋谷氏)に立証責任(証明責任)があるため、裁判官に不法行為の確信を抱かせないといけないわけです。
まとめると
裁判所の判断をまとめると、
- M氏の書籍は、軽い読み物の域を出ない
- M氏の実績(3億円)も、疑うには不十分
- 不正競争防止法・独禁法違反であるとは認められない
結果として、原告の請求を棄却しています。
S氏の思惑とはズレた判決
S氏としては、不正競争防止法違反という争点を足掛かりにして、扶桑社とM氏の疑惑を公(おおやけ)にすることが目的だったのではないでしょうか。ところが判決では、M氏の実績を疑うほどの証拠がない、とされました。
また、実績を裏付ける証拠を検証するべきだという原告(S氏)の主張も、そもそも単なる読み物(エッセイ)としての域を出ない書籍においては不要である、と一蹴しています。
S氏が、この裁判を通じて一番実現したかったことは、実績を裏付ける証拠の検証だったはずです。この検証が不要だと判断されたことは、S氏にとっては痛恨の極みでしょうね。
しかしながら、現時点で、S氏が控訴したというウワサは聞いていません。実際のところ、控訴しても判決を覆すのは難しそうです(素人の感想ですが)。
この件に関するS氏のコメントは、以下のサイトにあります。