「相場予測は、天気予報と違って過去から推計できるものではない」は本当か?
海外FXフォーラムを流し読みしていて、そこに貼り付けてあった動画の中で、あるフレーズが目に付きました。
The Currency Market cannot be estimated from the past,unlike weather forecasts.
上の英文は文法的に若干おかしい気がしますが、ざっくりと翻訳すれば以下の通り。
『FX市場は、天気予報と違って過去からは推計できない』
なんとなく言いたいことはわかりますね。でも本当にそうでしょうか?
マーケットを天気予報と比較すること自体に無理がありそうですが、このつぶやきが本質を着いているのかどうかを考えるには、まず現代の天気がどのように予測されているかを知っておくべきでしょうね。
どのようにして天気を予測しているのか
天気予報のベースはアメダス(AMeDAS)です。アメダスとは、日本全国に設置されている気象観測システムのことです。全国にくまなく設置されているアメダス(1300箇所以上)によって大量の気象データを集め、短期的な天気の変化を推測します。
さらに、気象衛星「ひまわり」によって衛星軌道上から地球を俯瞰し、広域的な雲の動きなどを把握して、中長期的な気候変化を予測します。
局地的なデータと大局的なデータを分析し融合し、短期的な天気(翌日の天気)や中期的な天気(週間天気など)を予測・発表しているわけですね。
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天気予報の精度は30年前から変わっていないが高止まりしている
実は、天気予報は30年前と比べても精度が高くなっているとは言えないんですね。30年前といえば1990年です。この30年でパソコン(OS)が発明され、スパコンのCPU速度は圧倒的に高まり、AI(人工知能)技術も進化するなど、科学技術は大きく発展したのに、天気予報の精度だけは30年前とそれほど変わらないのですね。
以下のグラフは「気象庁」が公表した天気予報の精度検証結果です。
1992年から2020年までの28年間における予報の的中率(%)をグラフ化したものです。わずかに右肩上がりに見えますが、劇的に精度が上がったとは言えませんね。まあ、このあたりが精度の限界なのかもしれません。
天気の予測精度に限界があるとしたら、その原因は何でしょうか?
天気予報の本質は”流体運動の予測”です。流体とはざっくり言えば、水や空気(風)のことです。これらが不規則に変化するため正確に数値予測することが難しいのですね。
地球は自転しつつ太陽の周りを1年周期で公転しているわけですから、気候は1年を通じてある程度の周期性を持っています。一方、短期的・局地的な大気の変動を決定づける要素は無数にあります。気温や湿度、海水の温度、風向きや風速、雲の動き・形状など…。これら多くの要素が互いに複雑に関係し合うことで大気の状態は刻一刻と変化します。これが短期予測を困難にする理由です。
バタフライ効果(=butterfly effect)って聞いたことありますよね。
バタフライ効果
初期条件の僅わずかな差が、その結果に大きな違いを生むこと。チョウがはねを動かすだけで遠くの気象が変化するという意味の気象学の用語を、カオス理論に引用した。
引用:コトバンク
天気(気候)に一定のパターンがあるとはいえ、無数にある要素の掛け合わせのわずかな違いによってその先の大局的な動きに変化をもたらす…その結果、正確な予測を困難にしてしまうのです。
相場がわかったような気がしてきた!は幻想だ
さて、本題に戻ります。
『FX市場は、天気予報と違って過去からは推計できない』、このつぶやきは正鵠を射ているのでしょうか?
天気予報は、100%の精度とはいきませんが、かなりの的中率(80%前後)を維持しています。特に最近は「◯分後に雨が降る」みたいな降水短時間予報なども登場していて、それなりの精度がありますよね。
一方の相場はといえば…
強い上昇トレンドが発生すれば、そのトレンドはしばらく続くと考えられますが、いつ転換するのか?については正確に予測することはできません。相場(マーケット)を構成する要素があまりにも多く複雑に絡み合っていて、わずかな組み合わせの違いが全体に影響を与えることがあるからです。気がついたときは上昇トレンドが終焉し、いつのまにか下落トレンドに変わっていた…ということは日常茶飯事です。
身も蓋もないのですが、結局は”ランダム”が相場の本質であると考えています。『FX市場は、天気予報と違って過去からは推計できない』はそれほど間違ってもいないと言えそうです。
正しく言い換えるならば『FX市場はランダムだから予測は(特に短期予測は)困難である』ですかね。
チャートを眺めていると、なんとなく相場がわかったような気がしてきますが、それは幻想です。特にテクニカル派は注意(というか戒め)が必要です。
テクニカル分析もパターン認識の一つです。過去の価格変動(パターン)から未来の動きを予測するのがテクニカル分析ですよね。テクニカル分析は、常に結果と原因を結びつけて考えるところからスタートしています。ところが相場は結果と原因の因果関係が見いだせないことのほうが多いのです。つまり予測不可能。
仮に、超長期的なざっくりとした動きは把握できても、短期的な(局地的な)変化を正確に捉えることが難しいのですね。
スキャルピングでクソポジを掴む人々
相場を構成する要素は様々であり、パターン化すること自体非常に困難です。ランダムであることを前提とし、その中の僅かな優位性を粘り強く拾って利益を上げていく…これが相場で生き残る唯一の方法であると考えています。
上記の考えをベースにすれば、短期足スキャルピングがいかに難易度が高いか理解できます。
局地的な変化を高い精度で捉える手法がスキャルピングです。相場がランダム(カオス)である前提に立つならば、短期的な動きに規則性(原因と結果)は存在しません。単なるノイズです。あなたは、ノイズを予測することができますか?
もちろんスキャルピングで財を成した人もわずかに存在するでしょうが、彼らは選ばれし人なのです。あなたにそんな才能がありますか?
私たち凡人に残された唯一の優位性は、相場の流れに乗ることだけです。つまり中長期的なトレンドフォロー(順張り)です。
雨が降っていれば傘をさし、北風が吹くときはコートを羽織り、荒れているならば外出を控え、天気が回復したら外に出る。常に適切な行動を心がけることで、目まぐるしく変化する天気(相場)に翻弄されることは少なくなります。
何度も述べますが、チャートを長時間眺めていると、なんとなく相場がわかったような錯覚に陥ります。しかし、しょせんチャートは結果をデジタル化したものでしかありません。相場の本質は、人為的かつアナログであることを知っておくべきです。