”FXはマイナスサムゲームである”
先日の記事「スプレッドを舐めんな!」で、FXというゲームの特性を次の通り解説しました。
FXにおいてはポジションを持った瞬間からマイナス(含み損ありの)スタートであるということ。つまりFXはゼロサムゲームでななく、厳密にはマイナスサムゲームなのですね。ゲーム参加者全員が不利なゲームを強いられているわけです。
このことをあまり理解していない投資家が多いように感じます。ゼロサムではなくマイナスサム。なぜなら胴元が存在するから…。
その記事に対して読者様からご質問をいただきました。
いつも読ませてもらっています。
質問があります。FXはゼロサム・ゲームだと解説で読んだことがありますが、このまえの記事でマイナスサム・ゲームと解説されていてやや混乱しています。
ゼロサム・ゲームとマイナスサム・ゲームの違いがよくわかっていません。株は経済成長によって誰もが利益を受け取ることができるので、ゼロサムじゃないというのは頭では理解できています。
でもFXは、売りと買いが存在するので、自分が儲かれば、その一方で別の誰かが損をするのではないですか?だからゼロサムゲームだと思っていました。この解釈は間違っていますか?
すこし誤解があるようです。解説が不十分でした。
ゼロサムゲームと非ゼロサムゲーム
まずは用語を整理しましょう。ゼロサムゲーム・非ゼロサムゲームは「ゲーム理論」で用いられる専門用語です。
正しくは「ゼロ和」「非ゼロ和」であり、マイナスサムゲームというワードは元来存在しません。
ゼロサムゲーム(=ゼロ和ゲーム)
- 参加者全員の得失点(利益と損失)の総和(=サム)が必ずゼロ(0)になるゲーム
- 一方が勝者になれば他方が敗者になる(Win-Lose)
- 代表的なゲームは、囲碁・将棋・オセロ
- 胴元が存在するギャンブルもゼロサムゲームといえる(胴元が勝者であり参加者全員が敗者)
- 利害は対立
非ゼロサムゲーム(=非ゼロ和ゲーム)
- 参加者全員の得失点(利益と損失)の総和(=サム)がゼロ(0)にならないゲーム
- 全員が勝者になるケース(Win-Win)や、全員が敗者になるケース(Lose-Lose)が存在する
- 代表的なゲームは株式取引(株が上昇すれば新たな価値が創出され、下落すれば価値が失われる)、「囚人のジレンマ」ゲームがある
- 利害は必ずしも対立するわけではない
FXはゼロサムゲーム?
で、ここからが問題です。
FXはゼロサムゲームなのか、それとも非ゼロサムゲームなのか?
様々な解釈を読む限り、FXはゼロサムゲームに含まれると考えている人が多いようです。ただ、正確に解説している人は少ないです。よく見かける解説は次の通り。
FXはゼロサムゲームである。
FXは誰かが売った通貨ペアを別の誰かが買う。その通貨ペアが上がれば「売ったユーザー」は損をして、「買ったユーザー」が利益を得る。つまり、誰かの利益は、常に別の誰かの損失となる(Win-Lose)。
だからFXはゼロサムゲームである。
FXというゲームの参加者を「FXトレーダー」に限定すれば、完全にゼロサムゲームです。原則、ゲームボード(賭博場)に存在するお金の量は常に一定であり、どこからかお金が出現したり、消えたりする…ということは決してありません。どのタイミングにおいてもゲーム参加者全員が差金決済をすれば損益の総和は必ずゼロになります。
ここが株式投資と異なるところですね。株式投資では株が上昇することで新たな価値が創出されます(お金が増える)。一方、株が下落すれば価値が失われます(お金が消える)。株式投資が非ゼロサムゲームと呼ばれる所以(ゆえん)です。
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胴元の存在によって、FXが”マイナスサムゲーム”に変容する
もう一度よくある解釈をご覧ください。
FXはゼロサムゲームである。
FXは誰かが売った通貨ペアを別の誰かが買う。その通貨ペアが上がれば「売ったユーザー」は損をして、「買ったユーザー」が利益を得る。つまり、誰かの利益は、常に別の誰かの損失となる(Win-Lose)。
だからFXはゼロサムゲームである。
上の説明は決して間違っているわけではありませんが、FXというゲームの一面しか捉えていません。
FXの本質をふまえた正しい説明は次のとおりです。
FXは、すべての取引において必ず胴元がテラ銭を徴収する。FXはテラ銭を徴収した残りのお金を参加者全員で取り合う。
どのタイミングにおいてもゲーム参加者全員が差金決済をすれば損益の総和は必ずゼロになる。胴元を除いた(胴元の取り分を除いた)場合、参加者のみの視点からゲームを眺めたときはゼロサムゲームである。
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一方、参加者はゲームに参加するために、常に胴元にテラ銭(スプレッド)を支払う義務を負う。つまりゲームボード(賭博場)に存在するお金はテラ銭分だけ減少しており、参加者が奪い合うお金の総和は常に(テラ銭分だけ)マイナスになる。
だからゲーム参加者にとっては、常に”マイナスサムゲーム”である。
言い換えれば、「胴元の利益」と「参加者が奪い合う損益の総和」を合計すると、常にゼロになる。ここでもゼロサムゲームが成立する。
FXというゲームを「FXトレーダー同士の勝負」に限定して解釈すると、完全にゼロサムゲームです。なぜならゲームボード(賭博場)に存在するお金の量は常に一定であり、どこからかお金が出現したり、消えたりする…ということは決してないからです。どのタイミングにおいてもゲーム参加者全員が差金決済をすれば損益の総和は必ずゼロになります。だからゼロサムゲーム(※ここではスプレッドを考慮していません)。
ところが…。
FXというゲームの参加者を「FXトレーダー」と「FX業者」に拡大して解釈すると様相は大きく異なります。
FX取引においては、必ず胴元であるFX業者にテラ銭(スプレッドや手数料)を徴収されます。これはゲーム参加料のようなものですね。勝ち負けに関係なく100%徴収されるからです。
FX取引では、すべての取引において必ず胴元(FX業者)がテラ銭を徴収します。わたしたち個人投資家はテラ銭を徴収された残りのお金を参加者全員で奪い合っているのです。
言い換えれば、FX業者にテラ銭を徴収された分だけ、私たちが奪い合っているお金の総和は常にマイナスになっているということ。
だから参加者にとては常に「マイナスサムゲーム」であると前回の記事で解説したわけです。
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胴元(FX業者)と参加者(FXトレーダー)の関係性からゲームを眺めれば、常に胴元が勝者であり、常に参加者全員が敗者なのです。
テラ銭を徴収されので、私たちのお金の総和は常にマイナスになる(マイナスサムゲーム)
極論ですが、FXはパチンコや競馬、宝くじと同じです。
胴元がテラ銭(参加料)を徴収する時点で、私たち全員の取り分は最初から減少しているわけです。どんなにあがいても私たちは常に敗者(Lose)であり、FX業者が常に勝者(Win)なのです。この二者の関係性はずーっと変わりません。だから私たちにとってFXは「マイナスサムゲーム」と言えるわけです(テラ銭を徴収された分だけ、私たちが奪い合うお金の総和は常にマイナスになる)。
FXにおいてはポジションを持った瞬間からマイナス(含み損ありの)スタートなのです。
FXは、売買という面から見ればゼロサムゲームでありながら、一方で全体から見たときはマイナスサムゲーム(私たちが奪い合うお金の総和は常にマイナス)になってしまうわけです。
ゲーム参加者全員が最初から不利なゲームを強いられている…それがFXの本質です。
FX取引そのものはゼロサムゲームじゃが、参加者とFX業者という二者の関係性から眺めれば常にマイナスサムゲームなのじゃよ。
だからスプレッドを軽視してはいかんのじゃよ。